秋田ヤブ山紀行

2002年5月5日


白子森登山 (標高 1,179m)
 今回登る山は、ちょうど一年前に登った大滝森から見たドッシリとした山容が印象的であった白子森である。この山は河北林道の郡境から阿仁側に下って行くと、谷の向い側に大きくそびえ立っているので河北林道を走った事のある人は見た事あると思う。標高1,179mで太平山より高くこの辺では大仏岳に次ぐ高さである。

奥の橋を渡って井出舞沢林道に入る。その先に白子森登山口がある。
 秋田市は昨晩からの雨が上がって日が差し始めてきたが、路面はまだ少し濡れている。六時少し過ぎに秋田市を出発、太平・岩見三内を通って岩見ダムから河北林道の入る。河北林道の舗装工事は井出舞沢出合の駐車場の近くまで延びていて、今年中には駐車場まで埃を被ららずに行ける様になると思われる。

  駐車場に着くと多摩ナンバーのワンボックスカーが停まっていて、年配の夫婦が朝食を作っていた。話を聞くとこの夫婦、昨日の朝東京を発って高速にのり真っ直ぐにここに来たのだと言う。何故こんな所にと聞いてみると、魚を釣りに来たが昨日は雨で散々であったと言う。この時期秋田の林道では県外ナンバーを多数見かけるが、殆どが渓流釣りの車で川の魚を根こそぎ釣って行くのが毎年繰り返されている。この辺の沢の名をよく知っているこの小父さんは、自分の川の話をしているかの様に得意げであった。都会人の楽しみのために秋田の魚が消えていく。このままでいい筈は無いと思うが。





 白子森に登るのは1995年の6月以来2度目で井出舞沢林道の終点まで行くのもそれ以来である。林道は奥に行くほど荒れていて以前より大分手前で車が通れなくなっていた。それでもバイクは進む事が出来たが、幾らも行かないうちに残雪と倒木でバイクも通行出来なくなっていた。ここは2人で押して越える事が出来そうだが、先の様子を偵察してくると土砂崩れの場所が多数あってここにバイクを置いていった方が良いと判断する。

















 バイクのスタイルから登山のスタイルに着替えて、登山口まで林道を歩き始める。しばらく歩いたが登山口はなかなか見えてこない。

 白子森の名前の由来ともなっていると言われるこの辺の灰色の山肌。岩が脆いため砂の様に崩れている。そのためこの付近の林道は冬の間に崩壊する事が多いのである。

 林道を歩いていると崩壊個所が多数見られ、修復された形跡は無く近年この林道に重機は入っていない様子がうかがえる。

   林道の道ばたには山つづじが美しく咲いていた。









 結局歩き始めて45分で登山口に到着したのだが、7年前にバイクを停めた所まで40分以上歩いてしまった。距離して4km弱林道が短くなっていたのである。今後この区間が整備されることは無いように思われる。車の場合は登山口まで徒歩50分は覚悟した方が良さそうだ。








 白子森登山口には以前無かった立派な標識が立てら、登り口には斜めにロープが張られて分かり易くなっていた。

 私は行った事はないが、昔この林道の奥には鉱山があっそうで、お墓も有るとか無いとか人に聞いた事があった。

 登り始めて直ぐ、以前は無かった丸太の梯子が掛かっていて驚く。7年前登山道は殆ど整備されておらずヤブの中に微かに踏み後が見える程度の登山道であったが、今回歩いてみると登山道は広く下刈りが行われており綺麗に整備されていた。白子森は以前のヤブ山もどきから、普通の山に変身していたのである。






 登り始めて直ぐブナの森の中を急峻な登りが1時間近く続く。日頃の運動不足が響いてか足が重く上がらない。一歩一歩足元を見つめながら足を前に出すがペースは上がらない。やっとの思いで尾根に上がると、そこにも標識が立っていてガスがかかっていても道を間違う事はないと思われる。



















 ここから少し下ってから、白子森山頂から河北林道の郡境に続く主尾根に向かってまた登る。 ここまで上がって来ると登山道の脇に残雪が現われる。例年であればこの付近は一面残雪に覆われている筈であるが、雪が少なかった今年は登山道に雪は無い。この時期の登山は残雪の上を歩くのも楽しみなので、登山道を少し外れて残雪の上を歩いてみる。
















  標識の所から山頂方向の尾根道、ここも良く整備されている。

 今年の残雪、いつもの残雪とチョッと趣が違って硬く靴が刺さり難く滑りやすい。おまけに右側は下が見えないほど落ち込んでいて慎重に登るが、早々に登山道に戻る事にする。


























 ここ辺りからだんだんガスが出てきて芽吹き始めたブナの森は幻想的な景色を見せ始める。




























    主尾根に出た所にも標識があった。
















 山頂まで500mの所にある水場の標識(右の写真。めくれた金属板を確かめなかったが多分?)と傍にあったブロンズ製プレートは、水場の方向を示すものと思うが、阿仁町となっている矢印の先は崖にしか見えなかった。書かれている詩のようなものは解読していない。






























 白子森の山頂部は池があるほど平で、今はまだ全体が雪で覆われていてどこが山頂であるか分からなかった。辛うじて倒れかけた標識が雪面から顔を出していて、そこが山頂である事を確認する事が出来た。

 AM10:45に到着した白子森の山頂は、あいにくガスがかかって視界がよろしくなく、風も強く吹いていて寒い。気温は5℃以下であろう。


























 今回同行したM氏は私より一学年上で7年前も一緒に白子森に登った山仲間なのだが、私と同様今回体力の低下を痛感したようでトレ−ニングをしなければ言っていた。50歳代の登山は、毎年の体力の低下を計算に入れて計画を立てなければいけない事を胆に命ずる。






 昼食をとった後、視界の利かない山頂に長湯は無用と早々に山頂を出発する。前回登頂時もガスで視界がきかなかったが、今回も山頂からの展望を見る事が出来なかった。我々は白子森を360度いろんな方向から見ているのだが、白子森から見た周りの山々の景色を見る事はかなわなかった。またいつかこの山頂に立つ事を誓ってAM11:15山頂を出発する。










 しばらく下った所で霧が少し晴れてきて、雪で覆われた山頂部を確認することができた。






















 主尾根からの分岐付近まで来ると、風が出てきてガスが動き始め太陽が顔を覗かせ始めた。日の光に照らされた新緑の葉は輝きを増し、鮮やかな黄緑色を発しはじめる。残雪や青空や雲のキャンパスにブナの枝が描く幾何学模様は、黄緑に縁取られていっそう美しさを増しはじめた。






















 河辺側から吹き上がったが風が阿仁側にガスを発生させる様は何とも幻想的である。







       正面の主尾根に続く、中央の尾根を下ってきた。








































 正面の山が昨年登った大滝森(地図には名は無いが地元ではそう呼ばれているらしい。)。あそこから見た白子森の姿が今回の登山のきっかけになった。
 右の写真中央に河北林道郡境の峠がある。林道の法面が見えている。

 登山口まで750mの標識まできた所で、登って来た年配の夫婦と出会う。林道に停まっていたバイクの人ですか?と聞かれたので「そうです。」と答える。1時間から1時間半あれば山頂までいけるとアドバイスする。今、12時を回ったところなので遅くても5時には下山出来ると思われるので問題は無いだろう。秋とは違って今は日が長く6時まで行動出来るので余裕がある。下山時間にはチョッと気を使う自分ではある。




 よくもこんな所を登ったものだと思う急な下り坂を慎重に降りる。下るに連れて木々の枝の黄緑が次第に大きくなって見える空を狭くしている。地面ばかり見ている登りと違って下りは周りがよく見え、登りでは見えなかった物や景色が目に飛び込んできて楽しい。

 山を見上げると麓の緑がグラディーションとなって山頂部の無色の世界へ続いている。山全体が緑に包まれる日も、もう直ぐおとずれることだろう。



















 12時55分、山頂から1時間40分で林道に降りてきた。これからまた平らな道を歩かなければならないと思うとチョッとウンザリ。山道を1時間歩くのはドウとも思わないが、平らな道は退屈で疲れる。

 往きの倍に感じた帰りの林道、あのコーナーの先にバイクがあるとはずと思って頑張って歩くが、その期待は何回も裏切られて結局往きと同じ45分歩いてバイクに辿り着く。ここまで来たらこっちのもの。早速バイクに跨り温泉に向かう。


 いつも河北林道の帰りは太平の貝の沢温泉に入るのだが、以前この時期つつじ祭と言って温泉代だけでなく入園料まで徴収されそうになった事があったため、今日は砂小渕の部落近くにある温泉施設ユフォーレに行くことにする。 体が熱かったのでジェケットを着ないで走り始めたが、だんだん体が冷えてきて寒くなってくる。歩いていたため感じなかったが気温は10℃程度しか無いかもしれない。     寒い!!



 車が満車状態のユフォーレの駐車場の隅にセローを押し込んで玄関に向かうと、玄関前では焼き鳥を焼いたり果物などを売っていた。何でこんな山の中でグレープフルーツを売っているのか首を傾げたが、4・5人で楽しそうにやっている。今の時期売るなら山菜だろうとつっこみたくなる。周りに人は誰もいないのに焼き鳥を沢山焼いている。時間も時間だし今焼いているのはきっと打上げ用なのだろうと思ってしまう自分は考え過ぎだろうか。

 中に入ると建物の立派な事に驚いてしまう。玄関を入ると広いロビーがあってホテルの様にカウンターの中にはネクタイを締めた男性が立っている。お風呂に入りたいのだがどうしたらよいか分からずキョロキョロしていると、カウンターの中からネクタイがこっちに来い光線を送ってくる。カウンターに行って「お風呂に入りたいのですが?」と言うと500円ですと言う。言われるままに500円玉をカウンターの上に置く。M氏は千円札をカウンターの上に出したがネクタイは黙って見ているだけ。目でお釣りはそこにあるだろう光線を送ってくる。私がカウンター上の500円玉を取ってM氏に渡すとネクタイは初めて行動をはじめローカーの鍵を我々に渡す。現在混雑しているので2人で一つのロッカーを使用するようにと一個の鍵をくれる。ネクタイからお風呂の場所の案内は無く、我々はお風呂を探すがやたらと広い館内に小さな案内板しかなく探し出すのに苦労する。

 脱衣所に入ると人はまばらで混んでいる様には見えない。どこが混んでいるんだ、これなら1人に一個のロッカーでも余るだろうに。我々が大きな荷物を持っているのを見ているのに実状を見ないで事務的な対応のネクタイに腹が立ってくる。結局ロッカーにはデイバック2個は入らず一個は籠の中に置くことになった。

 利用客の半数は年配者が占めると思われるこの場所に水着で入る温泉と立派なトレーニングルームとは理解に苦しむ。田舎のお爺さんやお婆さんはトレーニング用バイクはこがないと思うがどうなんでしょう。ネクタイのような事務的な従業員と言いここの施設に疑問がわいてくる。風呂から上がってパンフレットを見た時その謎は解けた。秋田県健康・・・・。頭に秋田県が付く施設と判明して全てが納得出来てしまいました。ここで納得してはいけないのでしょうが、納得してしまいました。この施設秋田県の不良債権となる日はそう遠くはないと診たが、どうなんでしょう。








 温泉とは名ばかりのただのお湯に浸かりながら今日の山を思い出してみる。白子森は太平山と違って人のあまり入らない静かな山であったが、登山道も整備されてこれからは多くの登山者が訪れるようになると思われる。

  美しいブナの森が残っている白子森がこれからもずっと今のままの姿をとどめていくことを願わずにはいられない。

  <新緑と残雪と幻想的なガスに包まれたブナの森>今日は楽しい山登りの一日であった。
  一方、体力の低下を痛感した一日でもあったが。



               お わ り



           Report by Ryuta

2001年5月5日撮影

秋田ヤブ山紀行