第3日目  9月22日(土)  岩尾内ダム⇒上紋峠⇒滝上⇒紋別⇒網走

 上紋峠はワインディングがつづく峠道だか、全般的に道路幅は狭く又路面もうねっている所が多くバイクのホールド練習には最適なコースである。ここの道はシートに漫然と座っていては駄目で、直線もほとんど腰を浮かした状態で足首・膝でバイクをホールドして体への衝撃を下半身で吸収して走り、コーナリング中もシートに加重する事は許されず下半身でシッカリホールドしていなければバイクはどこに行くか分からない。このような道の連続もまた北海道なのである。

 一気に上紋峠を走り抜けた我々は芝桜で有名な滝上町に出て国道273号を紋別方面に左折する。国道273号は紋別と内陸部を結ぶ国道で交通量は少なくない。

 滝上で国道273号に出てから5分後のPM2:00頃にそれは起きてしまった。前を走るゴルフに追付いた我々は追い越しを掛けるべく前を窺うが、対向車があったため見送る。そうこうしているうちに前を走るゴルフがトラックに追付き、トラック・ゴルフ・我々の順番で走行することになる。

 追い越そうと前を窺うと今度は横断歩道に掛かってしまい追い越しを見送る。長い直線の2車線道路で対向車は見えない。今度こそ先頭車は追い越しに掛かる。先頭車はゴルフの横に出ようと中央線を越えようとした時、ゴルフのストップランプが点いたのが見えた。

 ここから先に起きたアクシデントの内容について述べる事はここでは控えさせてもらうが、このアクシデントは我々だけに起きた出来事であって他の誰にも影響を及ぼさなかった事だけは申し述べておく。

 そしてアクシデントは起きてしまった。そしてアクシデントが我々に及ぼしたダメージは少なくなかった。

 K氏のR6はバイク左側を下に転倒し路上を数十メートル滑走した結果、クランクカバーにクラックが入りオイルが漏っている。アスファルトには漏れたオイルの線が長く延びていた。

  M氏の750SPの主なダメージ箇所。
* フロントフェンダー先端部欠損。
* フロントアッパーカウル・左ヘッドライト部脱落・破損。ヘッドライトケース破損。
* 左サイドカウル破損。左ウインカー・ウインカー球破損。
* チェンジペタルゴム部欠損・脱落。

  私の750SPの主なダメージ箇所。
* 右フートレスト欠損・脱落。
* マフラーサイレンサー破損及び取り付けステー部破損。

 人間へのダメージは各人革製のプロテクションの入ったウェアー・グローブ・ブーツ等を着用していため、打ち身程度の最小限のダメージで済んだのは幸いであった。これが布のウェアー・スニーカー等であったら確実に救急車のお世話になっていたと思われる。

 これから先をどうするかを考えるが、当面の課題は今夜の宿がある網走に辿り着く事である。早速、手持ちのパーツと道具で各車を走行可能な状態にするための応急処置に取り掛かる。このような場合に備えて応急処置用のパーツは常時携帯しているのだが、最近は使うこともなくリヤシート下で肥やしになっていたのだが突然の出番となってしまった。

 まずK氏のR6の処置から取り掛かる。左クランクケースカバーの状態は、カバー下側の角がつぶれてクラックが数ヶ所に入り、またそこからカバー下側に一本のクラックがケースの合わせ目まで入っていた。バイクを立てて置くとオイルが割れ目からジワジワと漏れてくる状態でこのままではオイルが漏れて無くなってしまうばかりか、オイルがタイヤに付着して転倒の危険がある。

 R6の処置としてはオイルの漏れを止めるため、割れ目に石鹸を擦り込みその上からガムテープを張る。これでオイルの漏れは一応止まりR6は何とか走行可能となる。

 次にM氏の750SPの応急処置に取り掛かる。左側のダメージが大きく左のヘッドライトレンズは脱落しておりこれを針金、バンド、ガムテープ等で元の位置に何とか固定する。幸いな事に左右のライトレンズは割れておらず球も無事でライトは点灯するが、左のライトはあらぬ方向を向いているためソケットを抜いて右側だけ点灯する仕様とする。

 左前のウインカーはボディーは壊れ球も割れていたが、球の予備は持っていないためウインカーはそのままにして、割れたウインカーレンズのオレンジ部分を拾い集めておく。問題なのはチェンジペタルの折損である。横に出ぱっているゴムの部分が折れているためギヤダウンは出来るが、ギヤのアップが難しい。これも折れたゴムの部分を拾って来て、ステンレスワイヤーでペダルに縛りつけブーツのつま先に引っ掛る様に細工する。これで何とか走行可能となった。

 私の750SPであるが、SP忠男のカーボンサイレンサー取り付けステー部のカーボンプレートが約7cm幅で前から後ろまで剥がれ落ちて中のグラスウールが見えている。路上に落ちていたカーボンプレートを拾って来てステーと共にステンレスワイヤーで固定する。 折れた右フートレストも拾って来て差し当たりこれもステンレスワイーヤーでブラケットに縛り付ける。破れたサイレンサーからの音は思ったより静かで走行には問題なく、右足も縛り付けたフートレストの出っ張りに引っ掛けて何とか走れそうだ。

 転倒事故を起こしバイクが破損した場合は、出来るだけ壊れたパーツを拾い集めることが大事である。そのパーツが応急処置や修理に大いに役立つ。旅先では修理パーツの調達は難しく、手持ちのパーツを使っての修理となるため壊れたパーツも大切な修理部品となるのである。

 日も少し傾きかけたPM4:00、3台の応急処置を終え現場を立ち去る。作業中時計を見る事も無く私としてはほんの1時間位の感じでしかなかったが、3台の修理に2時間の時間を要した事を後のビデオ再生で知る。

 国道275号から国道333号の丸瀬布に抜ける予定を変更し、紋別に出てオホーツク海沿いに国道238号で網走に向かう事にする。走り始めて少しして最後尾を走るK氏のR6がスローダウンし停止する。理由を聞くとオイルランプが点灯すると言う。R6のオイルランプはオイルレベルを感知して点灯する仕組みになっているはずなので、ランプが点灯したからと言ってエンジンが直ぐに焼き付く事はないが、転倒でエンジンオイルを大量に失った様でオイルの補充が必要なようだ。(エンジンオイルの圧力を感知し圧力が低下した場合ランプが点灯するタイプの場合は、エンジンが焼き付く危険があるため直ちにエンジンを停止しオイルレベルを確認する必要があり無理は厳禁である。)

 ここでM氏がエンジンオイル1Lを持っている事を思い出す。最近M氏の750SPはオイル消費が激しく、北海道を走る間にオイルレベルが低下する事が予想されたため補充用のオイルを持参していたのだ。思わぬところでそのオイルが役立つ事になり、オイルはR6とM氏の750SPに注入されオイルランプの機嫌を取る。

 日も沈みかけた頃、紋別に到着しガソリン給油のためJOMOのGSに立ち寄る。スタンドの人に店に有るエンジンオイルの銘柄を聞くと5W20等のバイクには不向きのグレードしか無い。このままでも普通に走るには問題は無いと判断しオイルの購入はしないことにする。ここでM氏のバイクのウインカー球を購入しソケットに取り付け、拾って来たウインカーレンズの破片と共にビニールテープで固定する。それでも保安基準のレンズ面積は満たしていると思われ、これで警察に止められる事は無くなった。

 宿のある網走まではまだ120km近くありこのペースで行くと後2時間半は掛かりそうなので、宿のアニマの里に電話し遅くなる事を連絡する。その時宿の旦那は「気を付けて来て下さい。」と言ってくれたのだが、後でその時の話を聞いたら何かあったのかと心配したそうである。



 紋別を出発しサロマ湖の近くまで来ると日はトップリと落ちて気温も下がって寒さが身にしみる。堪らずサロマ湖の近くの道の駅に入り休憩をとる。ここで寒さを防ぐためにアクシデントでズタボロになった雨具を着る事にする。全身穴だらけで風通しは良好ではあるが、着ないよりましと言う判断である。


ナトリウム灯に照らされたバイク達の姿は痛々しい。



 ここから網走の宿まではR6のエンジンをいたわって我慢の走行となったが、ズタボロ雨具のおかげで寒さはあまり感じなくなった。

 PM8:00前に網走に到着し宿の近くのローソンでガムテープを買おうとズタボロの雨具を着たまま店内に入る。店内の視線が自分に集中しているのを感じながらガムテープを探す。しかしガムテープの棚は空っぽであった。バイトと思しき女の子の店員にガムテープの在庫を確認するが店員は空の棚を見て一言。「有りません。」と言ってレジに戻って行った。

 ガックリと肩を落として外に出るとここの手前にもう1軒店があったことを指摘されそっちに行って見る。お店のおばさんが確かあったはずと探し出してくる。やっとの思いでガムテープをゲットする事が出来、これで穴だらけの雨具とカウルの修理が出来るとチョッと安心する。

 JRの踏切を渡って直ぐ左側にあるアニマの里入口の急な坂を登って行くと、道は途中から舗装でなくなるのだが今年はいつもより凸凹が酷くなっていて真っ暗な悪路に転倒しそうになる。いつもの場所にバイクを止めるが今日は地面が柔らかくサイドスタンドが潜り込んでしまってバイクが倒れそうになってしまう。

 何とかK氏の助けをかりて立て直し事無きを得るが、アニマさんライダーからのお願いですバイク用の板を用意してください。しかし以前は無かった駐車スペース用照明ライトが駐車場に向けて一個設置されていて我々を照らしてくれていたのは大変助かった。

 荷物を降ろし階段を上って玄関に行くと旦那が出迎えてくれる。我々の破れた雨具を見ても何も言わず一階の部屋に案内してくれる。この部屋はFUNKYが最初にアニマの里に泊まった時に使用した部屋で風呂もトイレも階段を通らなくても良く使いやすい部屋である。食事も直ぐに食べられるとから言ってくれる。宿によっては決められた時間を過ぎると食事が出ない所も有ると聞くが、ここでは遅くなっても温かい食事を用意して迎えてくれる。その気持ちが非常にうれしい。そんなところがこの宿に毎年泊まりに来る理由なのかもしれない。




 部屋で着替えて早速食事にする。M氏はここの夕食に出るホッケを楽しみに今年もやって来たのだが、何とした事か今日はホッケに変わって鮭のホイル蒸しが出てきた。旦那曰く、昨日までズーッとホッケであったため今日は鮭に変えたとの事。残念でした。今日は本当についていないM氏である。とどめにサロマ湖で採れたカキの陶板焼とくれば、カキは人間の食べ物ではないとまで言うM氏にとって本日は天中殺でした。写真も影が薄いM氏であった。

 ここでも美味しいおかずに食が進み、お櫃のお代わりを求めてしまったK氏は、M氏が食べないカキまでゲットしてますますご飯の量が増していったのであった。



 食後、お風呂に入ってスッキリしてから薪ストーブが焚かれた談話室(ゲストルームと呼ぶらしい)でゆっくりと安息の時を過ごす。波乱万丈の今日を振り返り、明日からの事を考える。

 そこに3人の若い女性の泊り客やって来て旦那に相談をもち掛ける。この三人はレンタカーを借りて旅をしている様なのだが、明日は稚内方面に行く予定にしているが今借りているレンタカーを遠軽で返して列車で稚内に行くか、またレンタカーを借りて稚内に行ったら良いかを旦那に相談している.

  我々がその話の中で最も驚いた事はこの3人の中で免許を持っているのは1人だけで、その1人も免許取りたてで免許を取ってから公道での運転経験のほとんど無いまま北海道にやって来てレンタカーを借りてここまで来たと言うのである。スピードを出すと怖いのでスピードを出さない様に走っていると言う。そんな話を聞いて始めは費用が安く上がるからと車で稚内に行く事を進めていた旦那も最後は列車で行く事を勧める事になる。

 免許取りたてで北海道に来てレンタカーで旅をする現代の若者の図太い神経に驚くと共にその勇気に感心もしてしまう。考えようによっては信号も無く真っ直ぐな広い道の北海道は、初心者にとっては天国なのかもしれない。そのまま天国に行ってしまわない事を祈らずにはいられなかった私であった。




 現在アニマの里を手伝っているとぼけた風ぼうのアンちゃん。由利正宗をラッパ飲みする。


 若者達の相談も終わって秋田から持って来た日本酒(今回は由利正宗)で旦那と一年ぶりの乾杯をする。今日あったアクシデントの話をすると、旦那も到着が遅れると言う電話をもらった時何かあったかと思ったそうで、到着した時の雨具の破れを見てそれが確信に変わったが何かあったかとはさすがに聞けなかったと言う。それだけのアクシデントにも関わらず何事の無かった様に平然としてここにいる我々が不思議だとも言う。それはライディングウエアーのおかげだと話すとウエアーの大切さを痛感した様であった。


 明日からの事をじっくりと検討してみる事にする。今のバイクの状態では走る事は出来ても楽しむ事は出来ない。我々は北海道に走りを楽しみにやって来たのであって観光目的でやって来たわけではない事を確認する。

 自ずと結論は導き出された。結論はバイクを走って楽しめる程度まで修理する事である。しかしそれにはある程度の道具も要るし場所も要る。そこで旦那に場所の提供と道具の借用をお願いすると旦那は我々の要望を快諾して頂き、明日の午前中を使いアニマの里ファクトリーに於いてバイクを修理する事に決定する。


 部屋に帰って破れた雨具をガムテープで修理する。3人の雨具の修理に要したガムテープの量は、新品のガムテープ半分以上を消費する量で、いかに雨具がズタボロになっているかが分かる。天気予報では明日、明後日と晴れの予報であるが、万が一雨が降った場合雨具が役に立たないのでは今の季節辛い。ガムテープだらけで見てくれは悪い雨具ではあるが、濡れるよりましである。この際見てくれは無視である。明日の予定は決まったが多少の不安を残しながら床につき、波乱万丈の北海道3日目は終了した。

民宿 アニマの里 〒093-0045 北海道網走市湖の口  tel 0152-43-6808  1泊2食付き  5,500円

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